はじめに
数ある爬虫類の中でも「カメレオン」程特徴的で不思議な生き物はいないのではないでしょうか?
同じ爬虫類でも、ヤモリは両生類のイモリと勘違いされやすく、イグアナは人によってはオオトカゲのような認識であったり角があったりとかなりの誤差があります。ヘビに関しても「毒」や「絞殺」のイメージが強すぎて凶暴な生き物、または「ヌルヌルしてそう」という食わず嫌いならぬ「触れず嫌い」な意見が一人歩きしている事も少なくありません。
しかし、カメレオンは爬虫類にさほど興味がない方でもイメージが一致している事が多いのです。長く伸びる舌、別々に動く眼、クルクルと巻かれたしっぽ、色を変える体…。他にも特徴はありますが、かなり認知度が高い動物です。
カメレオンはどんな生き物?
・分類から見るカメレオン
カメレオンは分類上「爬虫類有鱗目トカゲ亜目イグアナ下目カメレオン科」の生き物です。
カメレオンはトカゲの仲間であり、イグアナにも近い爬虫類の仲間という事になります。
この分類をさらに細かく分けると「カメレオン亜科」と「ヒメカメレオン亜科」に分かれます。
カメレオン亜科は皆様のよく知るイメージのカメレオン達が含まれています。
ヒメカメレオン亜科はどれも小型種揃いで、枝に巻き付けるのに不向きなくらいしっぽが短く、地上や低木で暮らしている事が多い種類です。
・それぞれの属について
カメレオンは更に、
カメレオン亜科は7つの属、ヒメカメレオン亜科は3つの属に分けられています。
解剖学等によって特徴が分かる種類もおり、このような区分になっています。
カメレオン亜科
- ナミカメレオン属(Chamaeleo)…主な種類:エボシカメレオン、グラキリスカメレオン、ナマクアカメレオン等。
- ミツヅノカメレオン属(Trioceros)…主な種類:ジャクソンカメレオン、ビダシャイムカメレオン、ヘーネルカメレオン等。
- ハチノスカメレオン属(Bradypodion)…主な種類:トランスバールカメレオン等。
- フタヅノカメレオン属(Kinyongia)…主な種類:フィッシャーカメレオン、ベーメカメレオン、ウスメラーカメレオン等。
- ムランジェンカメレオン属(Nadzikambia)…主な種類:ムランジェンカメレオン。
- カルンマカメレオン属(Calumma)…主な種類:パーソンカメレオン、オショネシーカメレオン、マルテカメレオン等。
- フサエカメレオン属(Furcifer)…主な種類:パンサーカメレオン、ボタンカメレオン、カーペットカメレオン等。
ヒメカメレオン亜科
- ヒメカメレオン属(Brookesia)…主な種類:シュトンプフヒメカメレオン、マユダカヒメカメレオン等。
- カレハカメレオン属(Rhampholeon)…主な種類:スペクトラムコノハカメレオン、ウサンバラカレハカメレオン等。
- チビオカメレオン属(Rieppeleon)…主な種類:ヒゲコノハカメレオン、カルステンカレハカメレオン。
体の特徴から見るカメレオン
・左右バラバラに動かせる眼
カメレオンには銃座のように突出した眼があります。
しかも、左右バラバラに360°の方向を見渡すことができます。
これは眼が収まっている「眼窩」に強力な筋肉があるためで、これを使って眼を動かしています。
カメレオンはこのような特殊な眼により視力、周囲の認識力が非常に発達しているため、獲物も立体視して狙いを定める事ができるのです。
・個性が出る頭部
カメレオンは体に対して大きな頭部を持っています。
頭頂部には盛り上がった部分があり、これを「頭頂冠(カスク)」と呼びます。
種類によっては高く伸びたり逆に低くなだらかであったりします。
また、後頭部に張り出した皮膚を持つ種類もいます。
この部分を「後頭葉(ローブ)」と呼び、首の付け根を保護するように伸びている種類もいます。
・恐竜を思わせる角
カメレオンの仲間の中でもミツヅノカメレオンやフタヅノカメレオン等の一部の種類には眼の上や鼻先に角を持つ種類もいます。
これは種類によって大小様々ですが、皮膚が盛り上がって角っぽくなった場合と角質または骨質でできた本当の角の場合があります。前者の方は皮膚なので柔軟性がありますが、後者の方は角なのでかなり丈夫です。
基本的にはオスに顕著に現れる角ですが、縄張り争いやメスを巡る戦いの際に用いられ、激しくぶつけ合って戦います。
・長く伸びて獲物を仕留める舌
この舌は柔軟性も併せ持ち、普段は口の中に蛇腹状に折り畳まれた状態で収納されています。獲物を仕留める際には下アゴと喉の強靭な筋肉と舌の基部にある舌骨の動きによって発射され、頭胴長とほぼ同じ長さまで伸びます。
獲物にとってはかなりアウトレンジ戦法です。
また、舌先はベタッとしているだけでなく吸着性もあり、獲物を捕らえて離しません。
獲物を捕らえた舌は素早く口の中に戻ります。
カメレオンの代名詞の1つではありますがデメリットもあり、
この捕食行動はカメレオンにとってかなり体力を消耗するため、飼育下で餌を与えられる事に慣れてくるとあまり舌を伸ばさなくなったり、中にはそのままピンセットからパクっと受け取る個体もいます。
また、水を飲むのも折り畳まれた舌が若干邪魔になっており、少しずつ口内に水を含んでゆっくりと飲み込みます。
・目立たないけど鋭い歯
カメレオンの口の中には、小さいけれど鋭い歯が並んでいます。
この歯の切れ味は中々の物で、強靭なアゴの筋力も合わさる事で獲物を容易く切断することができます。
また、カメレオンの殆どが動物食性ですが、エボシカメレオンは植物質の餌も食べる事が知られています。その時も鋭い歯によって、サックリと果実やレタスの葉を噛み切って食べます。
当たり前ながらカメレオンの武器でもあるため、変にストレスを与えて咬まれないように注意しなければなりません。
・以外と目立つ喉
カメレオンの多くの種類は喉に皮膚のたるみを持っています。
この部分を「咽頭垂(デュラップ)」と呼びます。
この部分は威嚇の時や異性にアピールする時等に広げられます。
種類によってはフリルのような突起が付いていたり、深い溝が入っているものもいます。
・形状が変わる?胴体
カメレオンの胴体はやや側平ですが、比較的太い形状をしています。
しかし、特殊な形状の肺を持っているため、威嚇する時や木葉に擬態する時に体を膨らませたり、更に側平になったりとその時の状況に合わせて形を変えます。
背中には「背陵」または「背部クレスト」というトゲトゲしたウロコがタテガミ状に生えている種類もいます。
・色を変える体表
カメレオンは「変色竜」という漢字の通り、体色をコロコロと変えることができます。
どんな色にでも変えられる訳ではありませんが、保護色として周囲の環境に合わせたり、気分や体温、他個体等に対するシグナルとして色を変える事もしばしばあります。
変色のメカニズムは、カメレオンのウロコは無色の薄い角質でできており、その下にある「真皮層」にたくさんの色素細胞があります。この色素細胞が脳から送られてきた信号に刺激された事によって色素細胞内の密度に変化が起こり、体色を変える事ができると言われています。
そんなカメレオンの体表は、大小様々なウロコに覆われた種類もいれば、きめ細かいウロコに覆われた種類もいます。中には「飾りウロコ」という円錐形のウロコを持つ種類もおり、なかなか変化に富んでいます。
・樹上生活に適した手足
カメレオンの手足は体全体で見ると細くて頼り甲斐がなさそうですが、実はかなりの握力を持っており、小型種のコノハカメレオンでさえ普通に掴まれると掴まれた箇所がチクチクします。パーソンカメレオンやウスタレカメレオン等の大型種なら尚更ガッシリ掴みます。
前肢部分は外側に2本、内側に3本の指、後肢は外側に3本、内側に2本の指があります。
他の樹上性のトカゲは鋭い爪を木の表面や幹に引っ掛けて登りますが、カメレオンは1〜2本の手足で枝をしっかり掴みながらゆっくりと他の手足を前に伸ばして行くという独特のスタイルで移動します。これは地上種も同じ動きをします。
・樹上生活の命綱!しっぽ
樹上生活を送る殆どの種類が長いしっぽを持っています。このしっぽは胴体に対して細長い印象を受けますが、こちらもかなり強い力があり、枝に巻き付けて移動の補助に使う事もあれば、しっぽ1本で全体重を支え、持ち上げる事もできます。
カメレオンにとって「第5の脚」とも言える重要な器官なので、カナヘビやヤモリ等のトカゲに見られる自切行動を取りませんし、しっぽには自切ができる種に見られる「自切節」がありません。
地上種であるヒメカメレオンやコノハカメレオンはしっぽが短く、種類によってはちょこんと付いただけに見えるしっぽもあります。
性質や生活からみるカメレオン
見かける機会が増えたとはいえ、やっぱり珍獣なカメレオン。
・カメレオンは昼行性の生き物
カメレオンは光の量の好みはあれども全ての種類が昼行性です。
夜が近付くとカメレオンは枝にしっかりと掴まり、体を丸めて眠りに就きます。
しっぽも内側にクルクルと巻き込み、体色もぼんやり明るくなります。
地上種も体を縮めて枯れ葉や低木の陰に隠れて眠ります。
・野生のカメレオンはこんな生活をしている
カメレオンの殆どはアフリカ大陸やマダガスカルの森林に生息しています。
生息場所によっては寒暖差が激しかったりスコールが降ったりする地域もあるため、カメレオン飼育は飼育している種類に合わせて飼育環境を反映させてあげる必要があります。
野生のカメレオンは、
朝起きると寒暖差によって大量に発生した朝露を飲んで喉を潤します。
その後、体を広げて日光浴をして体温を上げたり紫外線を吸収します。
ある程度体が温まったら早速餌を探しに移動し、
バッタやチョウ等の昆虫や小動物を捕食します。
捕食の後はまた日光浴をしたり、木陰に隠れて休んだりして過ごし、
夜が近付くと寝場所を探し、安全を確認してからゆっくりと眠りに就くのです。
・実は暑すぎ、蒸れが苦手
カメレオンは暑い地域に生息していると思われがちですが、基本的には殆どの種類が、ある程度の湿度もありながら風通しの良い木の上で生活しています。
そのため28℃を越えるような気温はカメレオンには暑すぎるくらいなのです。
高山種では、そのくらいの温度は一時的なら何とか持ち直す事もありますが、長く続くと体調を崩してしまいます。また、気温差が必要な種類も多く、高山種の中には昼は24℃くらいで夜間は15〜10℃まで下げて寒暖差をつける事が飼育の秘訣となるくらい寒さに強い種類も多いです。
・「自分は、見つかってなんかいない。」
カメレオンは自然界では捕食される事が多い生き物です。
そのため常に周囲を警戒しており、何かを感じ取るとすぐに木陰や枝に隠れたりします。
この性質はワイルド個体だとかなり顕著で、飼育下であまり見つめていると、カメレオンにとってかなりのストレスになってしまいます。また、触られる事もストレスになります。
彼らはいつでも「見つかってない」と思っており、触られたり見つめられたりする事は「見つかった!食べられる!」とカメレオンに思わせてしまいます。
・紫外線は大事な要素
野生のカメレオン達は日光浴をする事で紫外線を吸収し、カルシウムの吸収や新陳代謝を高めています。飼育下では紫外線灯が太陽の代わりとなります。
ガラス越しの日光浴はカメレオンに必要な紫外線の一部を遮断してしまうため、ガラスを開けての日光浴の方が彼らには良い日光浴と言えます。
・カメレオンはどのように産まれるの?
カメレオンの生殖方法は2つあり、1つは「卵性」。もう1つは「卵胎性」です。
カメレオンの殆どの種類は卵性で、
地中に産卵し長い月日を経て卵が孵化して幼体が地上に現れます。
もう1つの卵胎性は胎内で数ヶ月卵を育て、羊膜に包まれた幼体を出産します。
出産された幼体は自力で羊膜を破り、膜から抜け出すとその後は1匹で生きていきます。
また、卵胎性の種類はマダガスカルでは確認されておらず、アフリカ大陸の高山種である事が殆どです。これは、低温が続く高山の地中に産卵するより胎内で育て、しっかり成長させてから幼体を出産する事で生存率を高めていると言われています。
・基本的に単独で暮らしています
カメレオンは基本的に縄張りを持って単独で暮らしています。
種類によってはかなり協調性が良く、他種がいても気にしない種類もいますが、それはかなり珍しい事なのです。
カメレオンは縄張りに他の個体が入ると激しく威嚇し、激しい戦いに発展する事もあります。中には異性であっても攻撃的になる事すらあり、飼育の際は単独飼育を基本とします。
・動く物を認識しやすい
カメレオンは生きて動いている獲物を捕食します。
また、葉や枝についたキラキラと輝き、揺れる朝露を飲んでいます。
この性質がカメレオンの飼育難易度を上げている要因の1つですが、
努力と工夫次第では以外と簡単にクリアできる事もあります。
名前や文化から見るカメレオン
体色を変えたり左右の眼をバラバラに動かして周囲を探るカメレオンに先人達は何を思ったのでしょうか?
・「カメレオン」の名前の由来は?
この不思議な生き物の名称となった「カメレオン」は一体どこから来たのでしょうか。
実はカメレオンの語源は古代ギリシャ語から来ています。
- 「小さい(小さな)」を意味する「khamai」
- 「ライオン」を意味する「leon」
の合成語と言われています。
体を膨らませたり口を大きく開けて威嚇する姿や堂々としたカスクやローブをライオンのタテガミに見立て「小さなライオン」の名前をあてがったのでしょう。
・その姿は、まさに◯◯
カメレオンは1ヶ所でジッとしながらも眼だけをしきりに動かして周囲を確認しています。
その様子はミステリアスで常に物事を知ろうとしていると考えられ、
錬金術や紋章学においても「賢者」や「熟慮」「熟考」のシンボルとなっています。
・名前の表記も色々
カメレオンは、名称の表記も特徴から付けられている事が多いです。
漢字表記も体色を変える能力から「変色竜」「変色蜥蜴」と表記されています。
また、中国では「避疫」と表記されたりします。
この「避疫」は想像上の動物の事で、姿を消す能力があると言われています。
カメレオンの周囲の環境に合わせて変色する能力を避疫の能力と重ね、同一の存在として考えたと思われます。
・現地では神様の使い?
カメレオンの故郷の1つであるアフリカ大陸。
地域によってはその見た目から「魔物」として恐れられる事もある一方で、別の地域では「神様の賢い使い」と語られる事もあります。
その内容は
「人間は命を終えても再び地球に戻って来れる。」
といったものでした。
神様は伝達者としてカメレオンを選びました。
何故ならカメレオンは足は遅いけど慎重でとても賢い動物だからです。
神様はカメレオンに伝言を託しました。
しかし、その部落までの道のりは非常に険しかったため、
カメレオンは安全を考慮して進まざるをえませんでした。
その結果、中々人間達の元に辿り着く事ができませんでした。
神様は早く伝言を届けたかったのでカメレオンの後任にウサギを選びました。
伝言を受けたウサギは大喜びで人間の元へ行きましたが、
肝心の伝言の内容をすっかり忘れてしまいました。
伝言を忘れたウサギは人間達に
「人間は命が終わったら二度と地球に戻って来れない。」
と言ってしまい、人間は死ぬ運命を課せられてしまったのです。
その後、カメレオンは人間達の元に辿り着きました。
ウサギの伝達のせいで人間の死の確定を知ると、
自分が遅れた事を深々と謝り、人間達と共に暮らす事を決めました。
そして人間達に多くの知恵を与え
「死ぬ前にどう生きていくのか」「何事にも注意深く生きていくこと」
を伝えたという話があります。
まとめ
カメレオンの特徴を知ることは、彼らの飼育の時にかなりのヒントになり得たりします。
紫外線やストレス、風通し、気温等は飼育する種類やその個体差も関係してくるため、ショップ店員さんに話を聞いてみたり参考書等で特徴や生息地の環境を予習して設備を整えると良い結果に繋がりやすいです。
名前や文化に至っても、カメレオンの特徴をよく捉えた話なのではないでしょうか?
小さなコノハカメレオンだとあまりライオン感がありませんが、パンサーカメレオン等は威嚇にもかなりの迫力があるため「小さなライオン」の名前は確かな物という感じがします。