犬や猫、ハムスターなどにはなかなか醸し出せない独特な神秘性、意外な手触り、そしてユーモアたっぷりな見た目と生態からペット業界で人気を伸ばしているカメレオンやゲッコー、パイソンなどの爬虫類達。
彼らは種類によって活発だったりあまり動かなかったり、さらには生息環境や好みも違うので、毎日の観察や個体への理解を深めながらのお世話はとても大切な事です。
そんな爬虫類達にもかかりやすく恐ろしい病気があります。
それこそが、今回皆様にご紹介させていただく「マウスロット」です。
この病気は「爬虫類全般がかかる病気」と呼ばれるだけあって、カメレオンでもゲッコーでもヘビでも確認されており、気付かないと手遅れになってしまう事もある要注意な病気の1つでもあります。
1,爬虫類がかかりやすい病気!「マウスロット」とは?
「マウスロット」と聞くと聞き慣れない言葉かも知れませんが、分かりやすく言い換えると「口内炎」です。
しかし、爬虫類がかかるマウスロットと私達の口内炎には大きな違いがあります。
まず、マウスロットは口内や消化器系だけでなく呼吸器系などの細菌感染症でもあるという点です。
何らかの理由で器官に病原菌が入り、増殖する事でマウスロットを発症します。
次に症状です。
私達の口内炎はポコッと腫れたり穴が空いたりして滲みるような痛みがありますが、マウスロットの場合は口内を粘液や膿が覆ってしまいます。
最後に死亡率です。
口内炎で亡くなられた方を聞いた事はありませんが、マウスロットにかかってしまった爬虫類が亡くなってしまったという話はたまに聞きます。
「マウスロット」その意味は?
簡単に言えば口内炎ではありますが、マウスロットは「mouth rot」となり、直訳すると「口(口内)の腐敗」を意味します。
2,早期発見に努めよう!マウスロットの主な症状について
爬虫類達を恐怖のドン底に突き落とすマウスロットの症状とはどんなものなのかをご紹介させていただきます。
マウスロッド気付かないとどんどん症状が進行していき命の危機に直結してしまうのでできれば発見次第動物病院に連れていくのがオススメです。
①口が半開き
マウスロットにかかると口が半開きになるという症状がみられます。
口を閉じたままの呼吸が苦しく、難しいため口を開けて少しでも呼吸しやすくしている状態です。
また、腫れや膿などで口が閉じれない可能性もあります。
②ヨダレが凄い
爬虫類のヨダレは普段あまり目立つ事はありませんが、マウスロットにかかるとかなり目視しやすくなります。
③出血が見られる
口の周りや口内を見た時に「赤い点」や充血などを確認できる事があります。
④口内や口の周囲に腫れ物ができる
マウスロッドの症状がかなり進行した状態の1つです。
原因菌がさらに奥にまで入り込んでしまい、炎症を起こして腫れ物ができてしまっています。
酷い症状だとアゴから腫れ物が飛び出し口が閉まらなくなる他、出血などが見られます。すぐに動物病院に連れて行きましょう。
⑤口から塊が出てくるor付着している
マウスロットの症状としてヨダレと口の半開きとセットで知られているのが口から異物が出てくる、あるいは口全体に付着したようになるという症状です。
この物体の正体は「大量の膿」で、細菌により壊死した細胞が蓄積したものです。
この膿は白〜黄緑色で、かさぶたのように張り付いている物や、ポロポロと崩れるように取れる物、ねっとりとこびりついて取りにくい物もあります。
⑥口から異臭がする
ハンドリングしながら健康チェックをする場合は、飼育している爬虫類の「口臭」も気にしましょう。
マウスロットにかかってしまった個体の口からは、普段はしない「何かが腐ったような匂い」がする事が多いです。
⑦餌も水も受け付けずグッタリしている
マウスロットがかなり進行してしまった状態です。
呼吸も苦しく、口内も荒れているので餌や水を自力で摂取できず、栄養失調と脱水症状を起しています。
3,どうしてこんな事に!?マウスロットの原因とは?
大好きな爬虫類との素敵な「はちゅライフ」は嫌な事や時間の流れを忘れられるほど素敵な時間です。
飼育している爬虫類が元気に過ごしている姿は本当に輝いて見えます。
そんな中、大切な家族がマウスロットになってしまったら不安や心配で仕方ありませんし、動物病院で早めの治療が必要になります。
しかしマウスロットの原因が分からなければ対策も難しいというものです。
①ケージやレイアウトに口をぶつけたり擦ってしまった
意外と見ていないところで動き回っているのも爬虫類あるあるです。
学校や買い物、仕事中など家にいない時に何らかの拍子に口をぶつけたり擦ってしまう事があります。
また、飼い主が餌を用意している時に興奮し、勢い余ってケージにぶつかる事もあります。
②口内を傷付けてしまった
前述した原因と似ていますが、こちらは口の中となっています。
餌が待ちきれず口を開けてケージにぶつかり牙を折ってしまったり、餌として与えている昆虫の甲殻で口内を傷付けてしまったり、中にはピンセットに噛み付いて口にケガをする場合もあります。
特に餌に昆虫、コオロギの成虫を与える場合はトゲがたくさん生えた丈夫で硬い脚やメスの産卵管が口を傷付けてしまう事があるので取り除いてから与えるとケガする可能性を減らす事ができます。
③ケージ内や飼育器具が汚れている
マウスロットの原因の1つに「不衛生な環境」というものがあります。
ケージやシェルター、水入れなどが掃除されておらず汚れていると、ウイルスや真菌(カビの仲間など)、細菌が増殖してマウスロットを引き起こしてしまいます。
■落とし穴は意外と近くにある!
カビの仲間、いわゆる「真菌」は結構見落としやすい存在だったりします。
例えば湿度維持のための木材系の床材。
よくよく見たらカビがチョロンと生えている事もあります。アスペインチップなどではフンの水分や水入れからこぼれた水分を吸ってカビる事もあります。
また、乾燥水ゴケもカビやすい面があります。
水を吸わせてから絞って使う乾燥水ゴケは湿度維持などに使われる事が多く、その湿度のお陰で乾燥を防いだり脱皮不全の抑制になったりと優秀なアイテムです。
しかし、古くなったり空気の流れが澱んでいるなどの条件が重なるとカビがかなり生えていたという事も少なくありません。
④ストレスが溜まっている
飼育環境が悪かったり関わり方があまり良くないと爬虫類はストレスから体調を崩してしまい、免疫力が下がってしまいます。
免疫力が下がってしまうとマウスロットを始めとした病気にかかりやすくなってしまうのでとても好ましくありません。
ハンドリングのし過ぎだったり安心できる場所がない、飼育温度が低いなど要因は様々です。
⑤栄養バランスが取れていない
意外と栄養バランスが取れていない事もある爬虫類の餌事情。
フトアゴヒゲトカゲやリクガメ、イグアナ、エボシカメレオンなどは人工飼料だけでなく野菜や果物も食べるので比較的栄養バランスを考えて与えやすい面があります。
しかし、人工飼料に餌付きにくい種類や個体だと昆虫やピンクマウスなどがメインとなります。意外とビタミン類が不足しやすいのです。
⭐サプリメントを選ぶ時は自分の使い勝手も考慮しよう!
最近の爬虫類用サプリメントの中にはカルシウムだけでなくビタミンやカリウム、マグネシウムなどもバランス良く配合したタイプも販売されています。
また、肉食用、草食用と分けて配合されたスプレータイプのビタミンサプリメントやレオパ用に作られた物もあります。
⭐飲んでくれるならコチラもオススメ!
爬虫類用ビタミン剤として「テトラ レプチゾル」はとてもポピュラーな商品の1つです。
こちらは餌に振りかけるパウダータイプではなく、餌に染み込ませたり飲み水に溶かして与えるリキッドタイプとなっています。
使用量は100gの爬虫類に対して3滴が目安となっており、体重を測る必要はありますが個人的には扱いやすい商品だと思います。
妊娠中、老齢、成長期の個体にもオススメで、特にスポイトや給水器に慣れているカメレオンやゲッコーだと飲ませすくお手軽にビタミンを補給できます。
ウズラやマウスには先が細い注射器型のスポイトで体内にビタミン剤を仕込む事で摂取させやすくなります。
ただし、個体によってはビタミン剤の味や匂いを嫌がる事もあるので水で薄めたものを与えるなどの工夫が必要です。
4,少しでも良くなるように!マウスロットの応急処置について
このように原因も多く厄介な病気であるマウスロットは発見や処置が遅れてしまうと命に関わってしまいます。
また、動物病院に行きたくても時間や状況によってはすぐに行けない事もあるのではないでしょうか。
そんな危機的状態でマウスロットにかかってしまった時の応急処置の方法についてご紹介させていただきます。
①イソジンで消毒する
風邪やインフル対策でお世話になっているうがい薬「イソジン」が応急処置に使えるアイテムでもあります。
イソジンは非常に殺菌力や細胞への負担などが強いため、使う時は原液ではなく水で薄めて使わなければいけません。
必要な物は、先が尖ったタイプの綿棒と普通の綿棒、水、イソジン、薬品を入れたり混ぜるための入れ物、ティッシュ、プラスチックの薄い板です。
まずは口内のヨダレや膿を除去します。
ヨダレの場合は綿棒で優しく絡めたり、水に軽く浸した綿棒で優しく拭くと取れやすいです。
膿の場合は水に軽く浸した先の尖った綿棒で優しく落とします。
なかなか口を開けてもらえない場合はプラスチックの薄い板を噛ませると僅かに隙間ができて除去しやすくなります。
また、ツルツルしていて引っかかる部分が無いプラスチックの板だと口の中を傷付けにくいです。
綿棒がヨダレまみれ、または膿まみれになったら新しい物と交換して再び除去に移ります。
ある程度ヨダレや膿を除去できたら薄めたイソジンに浸した綿棒で口内を優しく拭きます。
この綿棒を使う時はビシャビシャの状態ではなく、容器の縁で軽く水気を切ってから使います。
また、拭く時はトントンと軽く当てるように拭くと繊維が牙や歯茎に引っ掛かりません。
②ビタミン剤を飲ませる
ビタミンには細胞の活性化や新陳代謝、皮膚や粘膜を健康に保つなどの働きがあるため、自力で水を飲めたり、ヨダレや膿の除去などの処置が終わった後にスポイトなどでゆっくり少しずつ飲ませてあげるのも応急処置の1つです。
コツは焦らない事。
一気に口の中に流し込んでしまうと嫌がって吐き出してしまったり気管に入ってしまう事があるからです。
■爬虫類達は気管は意外なところにある!
爬虫類の強制給水や強制給餌は難易度が高いです。
というのも口を開けた瞬間に流動食や水を流し込んでしまうと気管に入ってしまいやすいからです。
爬虫類の気管は食道の真下にあり、軟骨で補強されている事がほとんどです。
これにより餌を飲み込んでいる時も気管を圧迫から守り、呼吸を可能にしています。特にヘビなどは餌を食べている時かなり分かりやすいかったします。
自力で飲み込むのも大変なのに、この特徴に気付かず流し込んでしまうと、気管に入ってしまい大きなダメージとストレスを与えてしまいます。
⭐自力で治してる!?
爬虫類飼育の熟練者様にまでなると、初期症状のマウスロットをご自宅で治す事もあるようです。
イソジンや抗生物質入りの軟膏を塗り、飼育環境を見直したりビタミン剤を与えて治してるパターンもあり、流石の技術力を感じます。
しかし、無理は禁物ですので応急処置に自信が無い方や時間を作れた方はすぐに動物病院に行きましょう。
5,動物病院に連れて行く時の注意点について
大切な家族のマウスロットを早く治してあげたい気持ちは良く分かります。
なるべく早く行って治療を受けさせ元気にして欲しいのは分かりますが、まずは動物病院に連絡して予約しましょう。
連絡があれば病院側も対応しやすくなります。
次に、病院に連れていく時はあまり振動を与えないように、寒くないように温度に気を付けながら爬虫類を運びます。
特に車を運転する場合はそれと合わせて安全運転で向かいます。事故を起してしまったら色んな意味で元も子もありません。
また、飼育環境や、いつから症状が出始めたか、あるいは症状に気付いたか、フンの状態や食欲などについても話せるようにします。
これが明確であるほど原因も分かりやすくなります。
動物病院では採取したヨダレや膿から原因となる菌などを判別します。この原因になった菌などによって処方箋も変わってきます。
6,大切な家族のために!マウスロットの予防方法について
マウスロットの原因はご紹介していますので、予防方法はそれらを元にしたものとなります。原因と逆の事をすれば予防方法になるのです。
①ケージの定期的な掃除や水入れなどは毎日洗って清潔に保つ事
マウスロットの原因の1つに不衛生な環境があるという事は先ほど触れました。
理由として、不衛生だとマウスロットの原因となる真菌や細菌、ウイルスが発生増殖してしまうからです。
しかし、定期的な掃除や清潔な容器、飼育器具であればこれらの原因は爆発的な増殖ができないためマウスロットの予防に繋がります。
②口内や口を傷付ける原因になる物は取り除く事
餌となるコオロギを与える前に、硬い脚や産卵管を取り除いたり頭を軽く潰すのも口内を傷付けるのを予防できます。
また、木材系の床材を使っていると稀に鋭く尖った木片が出てくる事があります。
こういった物を取り除いておくと口に刺さる可能性を減らせるのでマウスロットの予防になります。
③良い飼育環境と関係を保つ事
その子にとって良い飼育環境を作るだけでも病気の予防になります。
飼育温度湿度の勾配も良く、隠れ家もありハンドリングも適度であればストレスが溜まりすぎて免疫力が低下する事はそうそうありません。
免疫力の低下は病気になる原因の1つなので、良い住居を整えるのはとても大切な事なのです。
是非その子にとって最高の飼育環境を作ってあげてください。
また、ハンドリングも慣れている子や、むしろ遊んで欲しがるような子の場合は健康チェックや部屋んぽを兼ねて触れ合う事でストレスを解消できる事もあります。
④栄養バランスを取る事
バランスの良い食事というものは私達人間だけでなく爬虫類達にとっても大切な事です。
実際彼らが野生下で食べている昆虫や動物は、体内に果物や野菜が摂取されている事だって少なくありません。
この内容物から微量ながら不足しがちな栄養を摂っているのです。
飼育下では栄養バランスも良い様々なタイプの人工飼料があるのでそれに慣れさせて与えたり、メインの餌にサプリメントを添加して不足しがちな栄養を補ってあげましょう。
⑤毎日健康チェックする事
ある日急に調子が悪くなるというのは誰しも経験があるのではないでしょうか。
爬虫類達も一緒で、急に体調が悪くなってしまうという事があります。
それにいち早く気付くための毎日の健康チェックも病気の予防に繋がります。
チェック中に床材の汚れが目立っていれば確認した後で掃除したりできますし、行動の観察やフンの調子を確認できれば健康かもすぐ分かります。
また、餌を待ちきれずケージに突撃しやすい子の場合は口の周りや餌への食い付きは入念にチェックしましょう。
口にちょっと傷がある場合はケージも清潔で飼育環境も良く、その子も元気いっぱいであれば自然治癒する事もあります。
まとめ
今回は爬虫類の怖い病気・マウスロットについて皆様にご紹介させていただきました。
マウスロットは爬虫類全般がかかる病気としても知られており、原因の多さから警戒しなければならない病気でもあります。
しかし、大切に飼育して爬虫類自体も元気いっぱいだったりすると、出ないどころか発病しても自力で治ってしまう事もある病気だったりします。
この病気は恐ろしい面もありますが、真面目に大切に飼育ができていれば必要以上に恐れる必要はないのです。
発病してしまった場合は爬虫類を診察・治療できる動物病院に連れていく必要がありますが、最近爬虫類の治療をしてくれる動物病院も増えてきているので事前に探しておきましょう。
また、応急処置もご紹介いたしましたが、不安な方は無理せず動物病院に直行で大丈夫です。
処置に2人がかりになってしまったり、慣れない事でストレスがかかるとさらに弱る子もいるからです。
本当に応急処置程度として覚えておいていただければ、いざという時に役に立つと思います。