カメレオンの仲間達は美しい体色だけでなく、体の大きさもバリエーション豊かです。
大型カメレオンの代表種であるウスタレカメレオンやエボシカメレオン、パーソンカメレオンはしっかりと重さがあり、大切に育てられた子は迫力もあるので人気があります。
一方で親指や手の平サイズのカメレオンも高い人気があります。
本ブログでお馴染みのベーメカメレオンやカーペットカメレオン、カンパニーカメレオンも人気がありますが、派手さのない体色で林床にひっそりと暮らし、他の追随を許さないミニサイズから可愛がられているのが「ヒメカメレオン」の仲間達です。
ヒメカメレオンの仲間の飼育方法は、以前ご紹介させていただいてますが、今回は冷涼な環境を好む珍しい種類「トゲツノヒメカメレオン」について皆様にご紹介させていただきます。
トゲツノヒメカメレオンは最近種類が細分化された事で本種だけの入荷が増えてきたカメレオンでもあり、大きくなっても人差し指にちょこんと乗ってしまう大きさとジト目、ちょっと荒々しい角が特徴的な種類でもあります。
1,ジト目で見つめる小型カメレオン!トゲツノヒメカメレオンの特徴について
①分類
トゲツノヒメカメレオンはヒメカメレオン属に分類されている小型のカメレオンです。
以前は「マユダカヒメカメレオン(学名:Brookesia superciliaris)」と混同される事も多く、稀にマユダカヒメカメレオンの入荷に混じってくる事もありました。
②大きさはどのくらい?
トゲツノヒメカメレオンはマユダカカメレオンより小さく(マユダカカメレオンは約8〜9.5cm)、大きくなっても約6.8〜9cmほどしかありません。
③どんな見た目をしているの?
トゲツノヒメカメレオンは、よく混同されていたマユダカカメレオンに見た目が似ており、目の上のクレストは角のように尖って突き出ている他、体色は褐色や灰色、淡黄色などに暗い斑模様が出る事もあります。
しかし、体色には個体差もあり、赤みがかった体色を持つ個体もいます。
背中のすぐ横には棘状の突起が並び、腰にも小さいながら棘状突起が突き出ていて厳めしさがあります。
マユダカヒメカメレオンとは違う特徴として、トゲツノヒメカメレオンの角(眼上突起)の外縁のウロコが不均質でゴツゴツしている事や、体表には小さな粒状のウロコが所々に散らばっており若干のザラつきを感じます。
⭐短い尻尾にも意味がある!
トゲツノヒメカメレオンやカレハカメレオンなどの地表性のカメレオンは、ベーメカメレオンやホーネリーカメレオンのような樹上性カメレオンとは違い、尻尾が短く枝などに絡めることができません。
本ブログでご紹介している「ヒゲコノハカメレオン」の場合は「チビオカメレオン属」の名の通り、尻尾が短過ぎて枝に絡めてぶら下がる事などは絶望的な難易度でしょう。
しかし、トゲツノヒメカメレオンはこの短い尻尾を意外とよく使います。人工観葉植物に掴まる時などに、尻尾の先を少し丸めてフック状にして葉っぱや枝に引っかけて移動します。
これならもし足を踏み外してしまっても、尻尾のフックが引っ掛かっていれば一番下まで落ちてしまうのを防ぐ事ができます。
④生息地は?
ヒメカメレオン属は全種類がマダガスカルの固有種です。
トゲツノヒメカメレオンはマダガスカル東部のアンダシベ付近に生息しており、その中でもやや標高が高い降雨林の林床部や低い茂みなどを好んでいます。
⑤別名はあるの?
流通名として学名から「テレズィヒメカメレオン」「テレズィエンヒメカメレオン」があります。
⑥どんな物を食べているの?
野生下では小さなダンゴムシやバッタ、イモムシなどを捕食していると考えられています。
飼育下では口のサイズに合わせてヨーロッパイエコオロギやフタホシコオロギ、レッドローチ、ハニーワームなどにカルシウムパウダーなどのサプリメントをまぶしてから与えます。
餌の虫を見つけるとしっかりと狙って長い舌を発射し、捕食します。
⭐ワーム系の反応が良い!
本種に限らずヒメカメレオンの仲間は動きがゆっくりしているため、素早く動けるバッタやコオロギより動きがゆっくりなハニーワームなどの方が反応が良いです。
⭐あむあむあむ…
トゲツノヒメカメレオンは口が小さい分、餌の虫も小さいものを与える必要があります。
筆者宅ではレッドローチのSサイズを与えているのですが、静かに近寄りレッドローチの動きが止まった瞬間に舌を伸ばして上手に捕食しています。
⑦どこでお迎えできるの?
ヒメカメレオンの仲間は現状ワイルド個体です。しかも常にショップで見られる種類ではないため、お迎えしたい場合はかなりの期間待ち続ける必要もあります。
マダガスカル便は晩秋〜冬に来るため、この時期を狙って探せば見つけやすくなります。
⭐悩まされるラインナップ!
マダガスカル便は多くの爬虫類愛好家が待ち焦がれているものです。一年を通しても来るシーズンが限られるため、入荷した種類などに注目が集まります。
以前ご紹介した「ヒルヤモリ」や「ヘラオヤモリ」もマダガスカル便なので、ヤモラーに取っても堪りません。
そんな注目の中、ヒメカメレオンが悩ましいラインナップで到着する事もあります。
トゲツノヒメカメレオン、マユダカヒメカメレオン、ティエルヒメカメレオン、シュトンプフヒメカメレオンと4種類入荷する事もあれば、エベノーヒメカメレオンやデカリヒメカメレオンなども追加される場合もあり、どの種類をお迎えしようか悩ましい事もあります。
また、たくさん入荷したら入荷したでお迎えするのが1匹か、それともペアかトリオかというのも悩ましくなってきます。
⑧どんな性格をしているの?
トゲツノヒメカメレオンは確かにひっそりと静かにしている種類ですが、筆者としてはヒメカメレオンの仲間の中では活動的な種類という感じがします。
また、協調性が良く、1つのケージで複数飼育する事もできます。
⭐不満はバイブレーションで伝えてくる
地表性カメレオンは体色変化が乏しいため、感情が分かりにくい特徴があります。
しかし、ヒメカメレオンは仲間に掴まれたり踏まれたりすると、体を「ブブブッ」と小刻みに震わせて不満を伝えてきます。
2,トゲツノヒメカメレオンの健康チェックについて
擬態しやすい小さな体をしているので健康チェックは難しいと思うかも知れませんが、確認しておかないと異変に気付きにくく、体調を悪化させてしまう可能性もあります。
まずは眼とその回りを観察します。カメレオンの状態は眼を見ると分かりやすく、脱水状態なども分かります。眼をちゃんと開いて見ているか、瞼に腫れ物や傷がないかをチェックしましょう。
次に口を見ます。淡や黄色くネバネバした物がついていないか、口を開けて苦しそうにしていないかなどを確認します。
これらの特徴はマウスロットや呼吸器系の病気を示しているため、とても大事な部分です。
この2つに異常がなければ、体表や手足の動きをチェックします。
手足が握ったまま固まってしまっている場合は非常に危険で、死の直前である事を示している事が多いです。
この状態に加え、目が開かない、口を開いて苦しそうにしている場合は手の施しようがないです。こうならないためにも手足にチェックは念入りに行いましょう。
また、体表をチェックする時は満遍なく見て、ニキビのような吹き出物や傷がないかなどを確認します。
Q,トゲツノヒメカメレオンってハンドリングできるの?
A,できない事はありませんが嫌がるので程々にしましょう。
ペットを飼育する方の中には触れ合いを望む方もいらっしゃると思います。ヘビもカメレオンもヤモリも人に慣れていればハンドリングもできるので、小型種であるヒメカメレオンの事も気になるのではないでしょうか?
結論から言いますと、トゲツノヒメカメレオンもハンドリングできない事はありません。元気いっぱいで多少人に慣れている子なら指や手に乗せる事はできます。
しかし、カメレオンの中でもヒメカメレオンは繊細で触れられる事が苦手です。
3,トゲツノヒメカメレオンの飼育方法について
トゲツノヒメカメレオンは飼育方法は他のヒメカメレオンの仲間達と変わらないと言われていますが、環境に敏感で温度配分などに気を付けなければならないなど少し難易度が高めです。
①ケージ
ヒメカメレオンの仲間達はカメレオンの中でも小型で動きも活発ではないため、飼育スペースをあまり必要としていません。
また、地表性なので高所にもあまり行かないので、高さもそれほど必要ではありません。
これは比較的活発なトゲツノヒメカメレオンにも当てはまります。
使うケージの大きさですが、幅40×奥行き30×高さ25cmもあれば3〜4匹飼育する事もできるため、爬虫類ショップによっては45cm水槽で飼育管理されている事もあります。
1〜2匹くらいであれば30cmほどの幅のケージで飼育もでき、爬虫類・両生類用飼育ケージや水槽、衣装ケースなどが飼育ケージとしてよく使われています。
⭐レイアウト次第ではフタも不要!
本種を始めとするヒメカメレオンやカレハカメレオンなどの地表種はあまり高い場所に行こうとしないため、ケージの高さを超えない、またはケージを乗り越えられる位置に物がなければフタをせずに飼育する事もできます。
フタがない分通気性が良いので湿度が高くなった時に蒸される心配がありません。
②温度
ヒメカメレオンの多くは日中約24〜27℃、夜間約18〜23℃で飼育管理されていますが、トゲツノヒメカメレオンの場合は比較的冷涼な環境に生息しているため、飼育温度も低めにする必要があります。
⭐ヒーターはパネルヒーターやシートヒーターがオススメ!
地表性であるヒメカメレオンの仲間達は、樹上性カメレオンのように空気が暖まっているというよりは地表の熱を受け取っているタイプなので、ヒーターはパネルヒーターなどのケージの下に敷いて使うタイプがオススメです。
③湿度
「地表」と聞くとジメジメしているイメージがあるかも知れませんが、彼らの環境は意外とカラッとしています。
日中は約65〜70%、日没後は約90%、夜間は約80%という湿度にしておくと特に問題なく飼育できます。
むしろ湿度が高過ぎたり、その状態が長く続く方が危険です。
湿度が高過ぎる状態が続くとヒメカメレオン達は肌荒れを起こしやすくなってしまったり、床材にカビが発生しやすくなって肺炎などの病気の原因になってしまいます。
④給餌
トゲツノヒメカメレオンは口が小さいため、餌として与える虫もSサイズ(最大約8mm)くらいにする必要があります。
ヨーロッパイエコオロギ、フタホシコオロギ、レッドローチ、ハニーワームなどが餌として与えやすく、食べるようであれば小さなミルワームやシルクワームも与える事ができます。
与える時はカルシウムパウダーなどのサプリメントを軽くまぶし、飼育下で不足しがちな栄養を補ってあげましょう。
また、トゲツノヒメカメレオンはヒメカメレオンの中では活発な方ではありますが、ベーメカメレオンのように常に動き回る種類ではないので2〜3日に一回ぐらいの間隔で与えるのがベストです。
餌にまぶすサプリメントですが、我が家では「マルベリーカルシウム」を使っています。
⭐与え方は「バラまき方式」がオススメ!
トゲツノヒメカメレオンなどの地表性カメレオンの仲間達は、警戒心からかピンセットからの給餌を受け付けない事が多いです。
そのため給餌方法はケージ内に餌の虫達をバラまく方法が最も反応が良い方法と言えます。
バラまくと餌の虫がレイアウトの隙間に逃げ込んでしまう事もありますが、自由に動き回る様子がヒメカメレオンには良い刺激になるようで、お腹が空いた子からゆっくりと近付いて捕食を始めます。
■ただし逆襲を受ける事も…
バラまき給餌は確かに反応は良いのですが、食べ残した虫が成長すると逆襲に転じる事があるため、食べ残された虫がいないかチェックする必要があります。
⑤給水
彼らはカメレオンの中でも珍しく、止まった水も認識して飲む事ができます。
そのため飼育ケージの中には深さのない、浅くて平たい水容器を設置してあげましょう。
こちらも様々な商品がありますが、「MUYYIKA ウォーターディッシュ」や「EXOTERRA ウォーターディッシュ」などもオススメです。
■間違っても深い水容器は控えよう!
本種を始めとしたヒメカメレオンの仲間達は体が小さいだけでなくカレハカメレオンの仲間のように体高がある種類ではありません。
あまり深い水容器を設置してしまうと、水を飲もうとした時に落ちて溺れてしまう事もあり、最悪の場合は体を引き揚げられず死んでしまいます。
⭐デザインを追求したい方はイベント購入もオススメ!
最近の爬虫類飼育道具の進化は目覚ましいものがあり、デザインや質感も様々です。
水容器(ウォーターディッシュ)やフィルターなども新しいデザインが販売されており、中には専門に作っている方もいます。
⑥床材
爬虫類飼育用のヤシガラやバークチップ、湿潤系サンドなどもオススメですが、湿りすぎた環境をあまり好まないので我が家では乾燥しやすい赤玉土を使っています。
赤玉土は水捌けが良く乾燥しやすいので、湿度維持対策をした上で使っています。
⑦レイアウト
ベーメカメレオンやウスタレカメレオンと比較すると隠れる性質が強いので、レイアウトする時は姿を隠せる場所を幾つか作るのがポイントです。
4,トゲツノヒメカメレオンの繁殖について
トゲツノヒメカメレオンは元々マユダカヒメカメレオンの混じりで入荷されていた経緯があるため本種を繁殖させたというデータはほとんどありません。
しかし、最近では本種だけの入荷もあるためペアでお迎えもしやすくなり、繁殖を狙える種類になってきたのも事実です。
①雌雄判別方法
トゲツノヒメカメレオンはマユダカヒメカメレオンより若干細身なので、パッと見だと雌雄判別は難しいです。
しかし、成長した個体の尻尾の付け根を見れば意外とすんなり判別できます。
メスのトゲツノヒメカメレオンは尻尾の付け根の幅が狭くスマートな尻尾をしていますが、オスのトゲツノヒメカメレオンは尻尾の付け根が太く、幅も少し広くなっています。
②繁殖形態
トゲツノヒメカメレオンも地面に穴を掘って産卵するタイプなので、繁殖を狙う場合は産卵床の役割も兼ねて、掘りやすい湿潤系サンドを使うのが良いかと思います。
③卵の管理について
繁殖データがほとんどないため未知の領域ですが、マダガスカル産のカメレオンなので初期の温度設定とその後のクーリング・ピリオドが卵の発生のカギになると思われます。
本種だけでなくヒメカメレオンの仲間は同じ地表種であるカレハカメレオンとは違い、繁殖データが少ないため、壁にぶつかる可能性が高いです。
まとめ
今回はヒメカメレオンの中でも冷涼な環境を好む・トゲツノヒメカメレオンについて皆様にご紹介させていただきました。
彼らは大分前から入荷していたにも関わらず、長年注目されてこなかった種類でもあります。
しかし、その見た目はそっくりなマユダカヒメカメレオンよりささくれ立って、少しワイルドな印象があります。
また、ケージ内ではヒメカメレオンにしてはよく歩き回り、見ていて楽しい種類です。餌を食べる時や水を飲む時も小さな口を開けて一生懸命なので、とても可愛らしいです。
参考資料:爬虫・両生類パーフェクトガイド カメレオン、ディスカバリー カメレオン大図鑑、世界のカメレオン