数ある爬虫類の中でもカメレオンは姿が想像しやすく、他の爬虫類に間違えられる事が無いくらい特徴的です。
左右バラバラに動かせる眼、長くてクルクルに巻ける尻尾、伸びる舌、トングのような手足、変色能力など不思議な魅力がこれでもかというくらい詰まっているカメレオンですが、中には他の爬虫類に似た見た目をしている種類がいます。
それが今回皆様にご紹介させていただく「ハラオビカメレオン」です。
よく見れば確かにカメレオンなのですし、他の爬虫類がカメレオンのような能力を身に付けている事はありますが、ハラオビカメレオンの場合は見た目が「カメレオンっぽくない」のが最大の特徴となっています。
1,変わった見た目が人気の秘訣!?ハラオビカメレオンの特徴や生態について!
①分類
ハラオビカメレオンはパーソンカメレオンやマルテカメレオンが含まれている「カルンマ属」に分類されています。
②生息地は?
マダガスカル産の種類であり、中〜東部、沿岸部にかけて分布しているとされています。
③大きさはどのくらい?
ハラオビカメレオンはヒメカメレオンほどではありませんが、とても小さな種類です。
⭐小さなカルンマ属は分けて呼ばれる事も!
カメレオン最大種と言われるパーソンカメレオンだけでなく、体が小さなハラオビカメレオンも含まれている個性的な「カルンマ属」のカメレオン。
そんな中でも小型種は「ナスタムグループ」と呼ばれており、ハラオビカメレオンの他にもベドガーカメレオン、ブレードカメレオン、ハナダカカメレオン(ナスタムカメレオン)などが含まれています。
④どんな見た目をしているの?
ハラオビカメレオンは、同じナスタムグループのカメレオンとも違うカメレオンっぽくない見た目がとにかく目を惹きます。
樹上性なので尻尾は細長く、植物のツルのように見えます。体色は全身鮮やかな若葉色で、体側に一本の白いラインが入ります。
この白いラインはハラオビカメレオンの機嫌や体調が良くてバッチバチの発色をしている時は鮮明になります。
発色の良い彼らは体高を変える事で竹や常緑樹の葉になりきり敵や獲物を欺きます。
名前の由来となった「ハラオビ(腹帯)」ですが、お腹側を観察すると、淡褐色のお腹のサイドに白いラインが入って帯のように見えます。
ハラオビカメレオンの背中には粒状の細かなウロコが並んだクレストがありますが、小さすぎて目立ちません。
また、カスクはオスメスともに低く、オスの方が僅かに高いくらいです。
顔つきはカメレオンにしては厚みや高さがなくスマートで、四肢も体の大きさに対して細く見えます。
⭐むしろ見た目を寄せていったまである
トカゲやヤモリなどの爬虫類の中でも一度見たらイメージが固定されてしまうほど特徴的なカメレオン。
カメレオンに似た見た目や能力を持つ種類もいますが、ハラオビカメレオンはどちらかと言うと、似せてきてるまであります。
特に「グリーンアノール」や「カメレオンモドキ」に良く似ており、高さのない頭部は両者、シンプルに美しい体色は前者に近いです。
⑤どんな物を食べているの?
野生下のハラオビカメレオンは小さな昆虫やイモムシなどを捕食していると考えられています。
⑥どんな性格をしているの?
パーソンカメレオンのように不活発な種類もいるカルンマ属ですが、その中でも本種は活発に動き回る種類です。性格も協調性が良いので同じケージで同種を多頭飼育する事もできます。
⑦どこでお迎えできるの?
ハラオビカメレオンなどのナスタムグループは根強いファンがいるものの、非常に珍しいため入荷はかなり稀です。
場合によっては数年待つ必要もあるので、お迎えしたいなら待ち続ける覚悟が必要です。
カメレオンに特化した爬虫類専門店では入荷する事があるため、お迎えしたい方は入荷情報をチェックするようにしましょう。
エキゾチックアニマルのイベントに行くと、珍しい枠として販売される事もあるので行ってみるのもオススメです。
2,ハラオビカメレオンの飼育設備について
ハラオビカメレオンは実際に見た事はあってもお迎えや飼育した事は無いので、ここからは飼育参考書籍を元に飼育設備などをご紹介させていただきます。
①お迎え
お迎えしたかったハラオビカメレオンの入荷情報を奇跡的にゲットし、お店に行ったら売約しましょう。
意外とあるのが実物を見て感動しているうちに、電話やお店に来ていたお客様に売約されるというパターンです。
入荷を待たれ続けた種類はカメレオンに限らず競争力が高いので、お迎えしたいのであれば油断は禁物です。
また、お迎えする際には必ず店員さんに飼育環境や与えていた餌、注意点などを聞くようにしましょう。
個体によっては環境の変化で一気に元気がなくなってしまったり、餌を受け付けなくなる事もあるからです。
■冬と夏場は悲惨な事になりやすい!
動物をお迎えした帰り道、近くに気になるショップを見つけて寄り道してしまった結果、悲惨な事態を招いてしまう事があります。
これはなかなか無くならないもので、どの動物に区切らず車に戻ったら動物がグッタリしていた、または死んでいたという事も少なくありません。
カメレオンなどの爬虫類の場合は、梱包された時に冬だと使い捨てのカイロをつけてくれるので相当寒い日や雑な扱いでなければ凍死はそうそうありませんが、冷やす手段が車の冷房しかない夏場は特に注意が必要です。
少し離れた間に車内の気温はかなりの高温になるため、致命的な大ダメージを受け、熱中症で死んでしまいます。
そもそも人ですら車内で熱中症になったり、車を開けた時の熱気にまいってしまうのに、他の動物達がそうならない訳が無いのです。
特に気温の影響を受けやすい爬虫類や魚類、両生類などは眼も当てられません。
②ケージ
小型で活発ですが、協調性も良いため飼育ケージは小さめの物で良いようです。
「ディスカバリー カメレオン大図鑑」では、最低でも幅と奥行きが40cm、高さが45cmあるケージであれば4匹も飼育する事ができるとされています。
③レイアウト
活発だけど臆病という性格の種類なので、細い枝や人工ツタなどを多く配置して活動できる場所を広げ、好きなタイミングで隠れられるように観葉植物やフェイクグリーンも多めに入れてあげると良いと思われます。
また、ハラオビカメレオンは夜間は葉先や枝先に止まって眠る事が知られています。
床材はペットシーツも掃除しやすいですが、湿度が保ちづらく感じるのであればバークチップやパインチップもオススメです。
⭐握力はしっかり強め!
カメレオン自体が握力が強い動物ですが、小型種と言えど、ハラオビカメレオンもかなりの握力を持っています。
ケージの壁面の一部に垂直にコルクボードを張り付けても、自慢の握力でグングン登っていきます。
また、メッシュケージやネットケージでも目が細かいネットを掴み、何事も無かったかのように縦横無尽に歩き回ります。
④温度配分
飼育データは少ないものの、ハラオビカメレオンはナスタムグループの中ではやや高温を好む種類という説もあります。
⑤湿度配分
カルンマ属のカメレオンらしく、高めの湿度を必要とします。
日中は65〜70%、日没後は90%、スコール再現時は90%以上、夜間は80%が飼育の条件とされています。
湿度は1日2回は霧吹きして保ち、スコール再現時や霧吹きをする時間が取れなかった時は「モンスーン」などの自動噴霧器を使うのもオススメです。
高い湿度を好んではいますが、決して蒸れたりジメジメした状態が好きという訳ではないので通気性は確保するようにしましょう。
⑥給餌
ハラオビカメレオンは体が小さいだけでなく、他のカメレオンよりデュラップの弛みが少ないので喉があまり広がらない可能性もあります。
飲み込みにあまり負担をかけすぎないように、餌は小さめのものを選ぶのが無難です。
餌の昆虫として、普段はコオロギ、レッドローチ、デュビアにカルシウムパウダーなどのサプリメントを軽くまぶしてから与えましょう。
ミルワーム、シルクワーム、ハニーワームなどは常食させるには栄養が偏っているため、食べるようであればオヤツとして与えてください。
ただし、ハニーワームはプラケースからも脱走しやすく気付けはケージの隅で繭を作っている事があるので与える場合は確実に食べさせた方が安心です。
給餌の間隔ですが、1〜3日に一度くらいが目安と言われていますが、それは必ずという物ではありません。
餌の与え方は主に3種類あります。
1つ目はピンセットで虫を挟んで与える方法。2つ目はケージの中にバラまいて与える方法。3つ目は小さなプラケースに餌の虫を入れて与える方法です。
ピンセットは餌となる虫を確実に食べさせ、その数を正確に把握できますが、ピンセットを怖がる個体にとってはかなりのストレスになってしまう事があります。
ケージ内にバラまいて与える方法は、餌の虫が自由に動き回るのでカメレオンに良い刺激となり、反応も良いです。
しかし、小さい虫だとケージの隙間から逃げる事がある他、食べ残された虫が成長し、カメレオンを襲う事もあるので注意が必要です。
特にコオロギ系は成長すると夜間に逆襲しやすいので、食べ残しを確認したらなるべく回収した方が無難です。
プラケースに餌を入れて与える方法は、虫を逃がしづらいため、与え方に慣れたカメレオンだとケースを見ただけで寄ってくる事もあります。
しかし、透明なケースだと舌が阻まれてしまい、カメレオンも「どうして取れないんだろ?」と拗ねてしまう事があるため、ケースは色付きの物が良いという説もあります。
⑦給水
カメレオン飼育の中でも給水は最も大切な事の1つです。
特にカルンマ属は水をよく飲む種類が多いため、給水器の水切れや水が飲めない事による脱水症状は非常に好ましくありません。
ハラオビカメレオンの給水器は他のカメレオンと同じ物で特に問題は無く、ドリッパーや水容器にエアレーションして動きをつけた物、自動給水器などがあります。
しかし、これらの給水器を用いても水を求める事があるので、スポイトや給水ボトルを用意し彼らの目の前で水を垂らしてみてください。
⭐カメレオンも健康には気を使っている!?
これは一部のカメレオンに見られる行動の1つですが、大量の水を口に含めた後、大量のヨダレとともに吐き出す事があります。
これは人間で言うところの「うがい」のようなもので、大量の水で口内を潤し、ヨダレを出す事で雑菌の繁殖を抑えていると考えられています。
パーソンカメレオンやミジカヅノカメレオンなどはこの行動を取りやすいようなので、ハラオビカメレオンも可能性はあります。
余談ですが、ぺぺ君の場合は水容器からダイレクトに水を飲むので見た事はありませんが、私の見えないところで「うがい」をしていたかも知れません。
⑧部屋んぽについて
ハラオビカメレオンは大きくなっても約14cmしかないため、ヒメカメレオンほどではありませんが、部屋んぽはあまりオススメしません。
しかし、飼育している子が人慣れしており、飼い主も彼らから目を離さないのであれば、たまには良いと思います。
部屋んぽさせる場合は、部屋の中にロープなどを設置して彼らの「遊び場」を作ります。
大型観葉植物の「モンステラ」なども良い遊び場になりますが、ハラオビカメレオンは緑色の葉に化けるのが非常に得意なので、欺かれて見失わないように注意が必要です。
また、扇風機などは尻尾や手足を巻き込んでしまったり、たまたまライトに触れて火傷してしまうというケースもあるため、怪我の原因になりそうな家電や飼育器具は一旦電源を落としておくのも1つの手段です。
⑨ハンドリングについて
ハラオビカメレオン自体が臆病な性格なので、ハンドリングはあまりオススメしません。
どちらかと言うと、ハラオビカメレオンは「ヒメカメレオンの樹上性バージョン」みたいな感じで触るより眺めるタイプです。
しかし、爪欠けや低温火傷、脱皮不全はケージを眺めるだけでは確認しづらいため、機嫌が良さそうな時を見計らって、時々手に乗せて素早くチェックする事は必要だと思います。
Q,ハンドリングを楽しめるカメレオンは?
A,人に慣れている個体であれば種類は関係無いと思います。
カメレオンは基本的に見られたり触られたりするのは苦手ですが、人に慣れている個体や物怖じしない性格であれば徐々に手や触られる事に慣らしてハンドリングをする事ができます。
今回ご紹介しているハラオビカメレオンは人影に敏感なのでハンドリングには向かず、触れ合いを望むのであればあまりオススメできません。
それでも触れ合いやすいカメレオンを望むのであれば、エボシカメレオンやパンサーカメレオンがオススメです。
握力がかなり強いですが、穏やかな性格が多いウスタレカメレオンも多少であれば触れ合いやすいです。
これは余談ですが、よく小型種で触れ合いやすい種類も聞かれますが、小型種の方がハンドリングは難しいです。
好奇心が強くて活発なベーメカメレオンでさえ、ぺぺ君のように陽気な性格であればハンドリングできますが、マカロニちゃんのように臆病な性格だと全くもってハンドリングに向きません。
3,ハラオビカメレオンの繁殖について
ペアが揃えば繁殖も狙えると思いますが、ハラオビカメレオンの詳しい繁殖データは乏しく、温度や産卵数などは謎のままです。
①雌雄判別について
彼らは入荷が稀な珍しい種類ではありますが、雌雄判別はしやすいです。
まず、カスクがオスの方が若干高いという事です。ハラオビカメレオンはカスクが低い特徴がありますが、メスの方がカスクが低い分頭部の輪郭が滑らかに見えます。
次に、体側の細いラインがオスの方がハッキリしている事です。メスは白というよりは淡褐色か淡緑色になるため、あまり目立ちません。
しかし、メスの体色はオスより鮮やかになる事があり、黄色っぽく発色する事もあります。
最後に尻尾の付け根です。恐らくこれが最も確実な方法で、尻尾の付け根が膨らんでいる個体はオス、膨らんでいないのはメスとなります。
②繁殖形態について
現段階で、ハラオビカメレオンはマルテカメレオンなどのカルンマ属と同じように産卵する事が分かっています。
どのように産卵するかは不明ですが、同じナスタムグループで本種より少し小さい「ハナダカカメレオン」は繁殖条件がある程度判明しています。
もし繁殖行動も似ているのであれば、産卵数は2〜4個と少なく、他のカメレオンのように穴やトンネルを作るのではなく枯れ葉の下などを浅く掘って産卵する可能性があります。
まとめ
今回はカメレオンっぽくないカメレオン・ハラオビカメレオンについて皆様にご紹介させていただきました。
ハラオビカメレオンはカルンマ属の中でも珍しい小型種「ナスタムグループ」であり、その実物を見れたらラッキーなくらいの激レア種です。
カメレオンよりトカゲっぽさが強く、美しい若葉色の体は人気がありますが、カメレオン特化のお店でも入荷が稀なので「奇跡のカメレオン」と言えるでしょう。
そんな彼らは活発だけど臆病。でも仲間と仲良しという面白い性格をしていますが、国内での飼育者が少ない事もあり、より詳しい飼育・繁殖データが少ない謎に満ちた種類でもあります。
彼らの臆病さと向き合い、新たなカメレオンの扉を開き、ナスタムグループの謎を解き明かす強い気持ちを持つ方や、ハラオビカメレオンのカメレオンらしかぬ魅力にハートキャッチされた方は待ち時間は長いかも知れませんが、是非ハラオビカメレオンをお迎えして、高級抹茶のような優しい緑色に癒されながらカメレオンライフを楽しんでみてはいかがでしょうか。
参考資料:カメレオンの教科書、ディスカバリー カメレオン大図鑑、爬虫・両生類パーフェクトガイド カメレオン、世界のカメレオン