ゆっくりとした動きに狙いを定めた時の目が可愛いカメレオン。最近では自宅でペアで飼育し繁殖をさせる方も増えてきています。
このおかげで今でも輸入がほとんどない種類が繁殖され、希望の光になっている訳ですが、繁殖にはかなりのリスクがあり、場合によってはペア両方とも亡くなってしまう可能性もあります。
1,ちょっとおさらい!カメレオンの繁殖に必要な注意点について!
カメレオンの繁殖は「ただペアが揃っている」だけではいけないという事は以前のブログでもご紹介していますので、ここでは最低限必要な条件についてサラッと触れていきます。
①しっかりと「成熟した」ペアかどうか見極める事!
カメレオンの繁殖には健康なオスとメスのペアが必要不可欠ですが、それだけで簡単に繁殖させられるというものではありません。
カメレオンに限った事ではありませんが、しっかりと成長し、性成熟したペアでなければ上手くいかない事も多くかなり難儀します。
②ペアリングは慎重に!
熱帯魚の「ベタ」にも通じるものがあるカメレオンのペアリングですが、お互いに興味を持っていたり成熟した事を表す体色を発色しているようであれば、すんなり交尾に移行する事もあります。
③交尾後はさらにメスに気を遣おう!
交尾したメスはオスが近付くと体色を暗くしたり模様を出して「妊娠中!」「こっち来ないで!」とオスにアピールするようになります。
協調性のある種類であれば、隠れ家を増やしてそのまま飼育する事もできますが、可能であれば妊娠中のメスはオスとは別々に飼育してあげた方が無難です。
オスのケージの隣になるようであれば、お互いが視認できないように隣合った部分の隙間に不透明なプラスチックの板やベニヤ板などを入れておくのがオススメです。
メッシュケージの場合はメッシュ部分が目隠しの役割を果たしてくれるので、より安心安全です。
⭐自己主張が激しすぎる!
「妊娠色」はメスのカメレオンにとって、オスに「明確な拒絶」を示す体色です。
基本的には体色が黒〜褐色になったり模様が出てきたりしますが、この妊娠色が派手過ぎて有名な種類がいます。
「カーペットカメレオン(ラテラリスカメレオン)」は普段は鮮やかな緑色の体色をした小さめのパンサーカメレオンの仲間です。
手の平サイズの扱いやすい大きさや、しっとりとしたきめ細かな体表も魅力的ですが、カーペットカメレオンの妊娠色は非常に派手で、あまりの美しさから妊娠中のメスの方が人気という、ある意味では奇跡の種類となっています。
⭐妊娠中のメスにはメニューも考えよう!
卵生でも卵胎生でも妊娠中は大変です。栄養が乏しいと卵が形成できなくなったり身体中の栄養を卵に持っていかれて弱ってしまいます。
そのためカルシウムなどのサプリメントも併用しつつ、ガットローディングをしたハニワームやシルクワーム、ミルワームなども普段のメニューに加えて栄養をつけてあげましょう。
2,カメレオンの繁殖にまつわる病気とは?
愛好家の皆様のおかげで少しずつカメレオンについての理解や愛着がジワジワと広がってきているのはとても素晴らしい事だと筆者は考えています。
しかし、繁殖にまつわる病気、またはアクシデントというものは知名度が低い事が多く、迅速な対処・対策が必要だったりします。
①ヘミぺニス脱
カメレオンやヘビなど多くの爬虫類の体の仕組みとして、オスの場合は「ヘミペニス」という生殖器があります。これは2本ありますが、交尾で実際に使うのは1本だけとされています。
しかし、この部分が何らかの理由で飛び出したまま引っ込まなくなってしまう事があります。レイアウトに引っかけてしまったり、乾燥してなる事もあると言われています。
②総排泄孔脱(そうはいしゅつこう/くう だつ)
爬虫類に限らず鳥類や魚類、両生類も総排泄孔(そうはいしゅつこう/くう)です。
この部分は排泄も産卵する所も同じになっているため哺乳類とは別に考えられています。
とはいえ、この部分も排便や産卵の後などに飛び出してしまう事があるためとても危険な病気です。
③直腸脱
爬虫類のお尻(総排泄孔)を見てみると「何かが飛び出している」というパターンがあります。ハンドリング中やケージ内で動き回る姿を見て違和感を感じ、そこで初めて気が付く事が多いです。
この病気は本来体内に収まっているはずの内臓である「直腸」が飛び出してしまった状態であり、放っておくと乾燥や細菌感染、引きずりなどでダメージをおってしまいます。見つけたらすぐ動物病院に行きましょう。
④卵詰まり
単純に「卵秘(らんぴ)」と呼ばれる事もある病気です。
妊娠中のカメレオンの胎内には大量の卵や幼体、または体の大きさに見合わないサイズの卵などが内臓を圧迫しています。
上手く産卵ができない、もしくは産卵時期を逃してしまうなどの症状があります。
■繁殖を考えてないのに!?
誰もがペットを繁殖させたいと考えている訳ではありません。
しかし、中にはどんどん卵や幼体を産んでしまうという事も少なからずあるのです。
カメレオンのメスは時折胎内で卵を形成してしまい、ある日急にケージの底面や部屋んぽ中に植木鉢に行ったかと思うと、そのまま産卵をする事もあります。
オスと交尾をせずに産まれた卵は「無精卵」なので孵化する可能性はほぼありません。しかし、この卵も卵詰まりの原因になってしまう事もあるため油断はできません。
また、お迎えした子が「WC」いわゆる野生から採集された子の場合などは注意が必要です。
カメレオンは「貯精」という、一度交尾すると胎内に精子をしばらく保存する事ができるという説があります。
そのため飼育を初めてからしばらくしてお腹が膨らんできて、有精卵や幼体を産んだというパターンもあります。
■気付いたら出産!?
カメレオンの仲間達で「単一生殖」したという話は聞いた事がありませんが、爬虫類の仲間全体で見るとできる種類もいるのが分かってきています。
「単一生殖」とはペアがいなくても、健康状態さえ良ければ自分だけで繁殖できる能力の事です。
ヨルトカゲの一部の種類やオガサワラヤモリも単一生殖が確認されており、最近ではコモドオオトカゲなどの種類も単一生殖する事があると分かってきました。
⑤卵管破裂
卵詰まりの派生系とも呼べる病気で、卵が卵管に詰まってしまった際に何らかの理由で卵管が破れてしまい卵が体腔内に入ってしまいます。
⑥ヘミペニスの詰まり
病気というべきか迷いますが、ここでは病気としてご紹介させていただきます。
オスの爬虫類を飼育している方だと観察しやすいのですが、排泄時や日向ぼっこ中に出し入れをする様子が見られます。
この時ヘミぺニスの先にグミにも蝋の塊にも似た物体がくっついている事があります。これは精液の塊で大抵はキレイに取れてくれるのですが、稀にくっついたままになってしまい、ヘミぺニス脱などの原因になってしまうため注意が必要です。
■コレが原因でメスが死んでしまう事も!
先ほどヘミぺニスの先にくっついた精液の塊について触れましたが、カメレオンを繁殖させたい場合は非常に厄介な物だったりします。
カメレオンが交尾をした際、メスの胎内に入ってしまうと死んでしまう事があるというのです。
考えられる原因としては、塊に付着した雑菌が体内に入ってしまった事や、シンプルにメスの体内を傷付けてしまった事などがあります。
3,これらの病気になってしまったら!?〜応急処置〜
先ほどご紹介させていただいた症状は、卵詰まりと卵管破裂以外は全て、生殖器や内臓が外部へ飛び出してしまっている状態です。
この状態はとても危険で、放置していると飛び出してしまった部分が乾燥したり、傷付いてしまうだけでなく、本来なら付着しないはずのゴミや雑菌が付着してしまう事で浮腫や壊死を引き起こしてしまう事もあるのです。
そのため、これらの症状は放置、または気付くのが遅れてしまうほど死亡率が高まってしまい、皆様の幸せなハチュライフを壊してしまいます。
①まずは患部の状態を見る事
総排出孔脱やヘミペニス脱に気付いたら、まずは患部の状態を見ます。
②ヘミペニスに付着物がある場合は優しく取り除く事
カメレオンのオスは、排尿や排便をした後にヘミペニスを出して精液の塊も排出するのですが、この時にヘミペニスが戻らないと、細かいゴミや尿酸などが付着してしまう事があります。
このような場合は霧吹きで優しく水をかけて流してあげたり、水で濡らした綿棒で尿酸を落としてあげましょう。
また、この時飛び出しているヘミペニスの先に塊を発見した場合は、ピンセットを使って蝋状の物を挟み、ゆっくりと引っ張って取り除きます。
⭐水をかける場合は常温で!冷水はNG!
カメレオンに限らず爬虫類は変温動物です。冷水をかけてしまうとショック状態になってしまう事もあるので、かける場合は常温または飲み水にしてるくらいの温度にして急激な温度変化を抑制しましょう。
⭐実は精液詰まりは早期発見しやすい!
カメレオンの精液詰まりは他の爬虫類の仲間と比較すると発見しやすい傾向にあります。
と言うのも、腹這いに移動する爬虫類達とは違い、カメレオンは腹側を浮かせて移動するため、精液の詰まりがあるのが尻尾の付け根部分を見るとけっこう分かりやすいのです。
オスのカメレオンの尻尾の付け根(総排泄孔)の辺りを見た時に、うっすらと茶色、もしくは半透明なクリーム色の物がへばりついていたり、糸状になってピョロンと飛び出している場合はヘミペニスの先に精液が固まってしまって排出できていない証拠です。
発見した場合は、自然排出を待つかピンセットで飛び出している精液の塊部分を挟んで優しくゆっくりと引き抜きます。
この時ヘミペニスが引っ張られて出てきてしまう事もありますが、塊を掴んだまま止まっているとヘミペニスは自然と引っ込もうとするため、上手くいくと精液の塊をポロッと取り除く事ができます。
③ワセリンと清潔な綿棒を用意!
水で患部を洗浄して清潔にしたら、ワセリンと清潔な綿棒を用意します。
用意できたら綿棒にワセリンを塗り、飛び出している患部をゆっくりと押し込んでいきます。
④押し込んでも飛び出してしまう場合は患部の乾燥防止に努めよう!
ワセリン+綿棒で押し込んだ時に、飛び出した患部が再び飛び出す事無く収まってくれれば良いのですが、押し込んでもすぐに飛び出してくる場合には患部にもワセリンを塗って乾燥するのを防ぎます。
⑤卵詰まりの場合は水が飲めているか確認する事
メスのカメレオンは体内の限界まで卵や赤ちゃんを抱えている事も多く、卵詰まりは死に至るケースも多いです。
特に悲しいのが無精卵によって卵詰まりを起こすケースで、エボシカメレオンなどの産卵数が多い種類などは長期飼育の際のネックになる事もあります。
卵詰まりの原因は様々ありますが、まずは「ちゃんと水が飲めているか」を確認しましょう。
水容器やドリップボトルからだけではなく、スポイトや給水器からも水を与えてみて反応があればあまり飲めていなかった事が分かります。
⑥産卵・出産場所を作ってあげる事
出産にしろ産卵にしろ、安心して産むための大切な場所がないと、産卵も出産も長引いてしまって卵詰まりの原因になってしまう事があります。
⭐中には産卵場所を気にしない子も!?
私達人間の中にも多少の事には全く動じない方がいるように、カメレオンの世界にも多少の事(?)では動じない性格の子がいます。
指や眼鏡が大好きなペペ君も動じない子の中に入ります。
緊張感高まる出産、産卵は本来であれば割りとタイミングがシビアなため、お母さんカメレオン達はかなりストレスがかかっています。
そんな中、動じない性格の子だと「産めればOK」と言わんばかりに産卵用の土を掘るのを辞めて、その場で産卵する事もあります。
⭐出産するタイプの場合はケージのレイアウトを見直す必要も!
ジャクソンカメレオンやエリオットカメレオンなどは卵ではなく、羊膜に包まれたままの赤ちゃんを出産します。
このタイプの良い点は、産まれ落ちてすぐに育った赤ちゃんが羊膜を破って自立できる事ですが、困った点と言えば、お母さんカメレオンは1ヶ所に留まって出産し続けるのではなく、ケージ内を移動しながら出産する事です。
そのため深い水容器などがあると赤ちゃんカメレオンが産まれてすぐに溺れてしまったり、自立行動を始めた赤ちゃんカメレオンが水容器に落ちてしまったといった事故が発生しやすくなってしまいます。
Q,出産中に黄色い物体が出てきた!これって病気?
A,それは「スラッグ(無精卵)」なので病気ではありません。
エリオットカメレオンやジャクソンカメレオンは羊膜に包まれた赤ちゃんを出産するため、どことなく神秘的な雰囲気があります。
ですが、時折黄色いグミのような物体が出てくる事があるため初めて見た方はビックリするでしょう。
この黄色い物体は「スラッグ」と呼ばれており、他にも「無精卵」「未成熟卵」「未形成卵」などの呼ばれ方をしています。
4,これらの病気になってしまったら〜病院編〜
応急処置は所詮は応急処置。それ以上に悪化させないための手段に他なりません。
応急処置で治ってくれれば良いものの、出た物が引っ込んでくれない事は珍しい事ではないのです。
まずは爬虫類にも対応できる動物病院を見つけて連絡をします。
次にカメレオンの状態を伝え、飼育環境などについても聞かれたら答えます。(飼育環境などは病院に着いてから聞かれる場合もあります。)
予約が取れたらすぐに病院に連れていき、適切な処置を受けましょう。
卵詰まりであれば投薬などで産卵をスムーズにし、体内に卵を残さずキレイに産ませきる事ができます。
Q,ヘミペニスって切除しても良いの!?
A,ヘミペニスは2本あり、元々交尾の際も片方しか使わない物なので切除されてもあまり変わりません。
この記事を読んだ方の中には思わず股間がキュッとなってしまうかも知れません。
しかし、ヘミペニス脱は状態が酷かったりどうしても引っ込まない場合はやむを得ず手術して切除する事があります。
ヘミペニスも生殖器という内臓ですから、悪くなった物を体内に残し、更に悪化させる訳にはいかないのです。
では大事な物を切除されてしまったカメレオンはもう繁殖が出来ないのかと言われると、そんな事はありません。
Q,手術費用ってどのくらいかかるの?
A,動物病院によって違います。
こればかりは大体幾らくらいと言う事は筆者にはできません。
何故なら症状の進行具合や病院によってお値段に違いが出てくるからです。
ついでですが、大切な家族の命が懸かっているからこそ手術が必要な訳で、その天秤にお金を置くのはちょっと違うかな、というのが筆者の考えです。
手術なので安いという事はありませんし、術後のお薬も処方されるでしょうからそこそこ覚悟しておいた方が安く済んだ時にちょっと得した気分になれます。
まとめ
今回はカメレオンの繁殖にまつわる病気について皆様にご紹介させていただきました。
この飛び出す系の病気はカメレオンに限らず爬虫類全体で見落としやすい病気でもあり、小型のマルメヤモリにだって起こり得るため日頃の観察がとても大切な事を思い知らされる事もあります。
また、気付いたら患部が乾燥した上に出血や変色までしていたという最悪なパターンも起こりやすいため、視線に敏感な彼らの小さなサインを見逃さないようにしていきたいものです。