リクガメや一部の種類を除く爬虫類達は餌として主に昆虫や肉、魚を食べています。
そのためカメレオンやレオパなどを飼育する時にはどうしても餌用の昆虫を用意し飼育管理して与えるという事がセットになってきます。
そんな餌用昆虫の中で、最もポピュラーな存在といえるのが「コオロギ」です。
ショップではサイズごとに分けられて販売されており、爬虫類や小動物、魚類、鳥類の幼体から成体まで幅広く与える事ができます。
また、繁殖も簡単なのでコツさえ掴んでしまえば自家繁殖させて餌代の節約にもなります。
1,コオロギの特徴について
コオロギは森林や草原だけでなく、公園や庭にも生息していて見かける機会が多いのですが、今回の主役ですのでその辺も語っていきたいと思います。
①見た目について
コオロギはバッタの仲間を指す「直翅目」のグループであり「キリギリス亜目コオロギ上科」に含まれている昆虫です。
見た目は茶〜黒褐色で、トノサマバッタやイナゴと比較するとずんぐりとした体型をしており、頭部や腹部もふっくらと丸みを帯びているのが特徴です。
頭部には長い触覚、お尻には尾毛という鋭敏な感覚器官が2本ずつ生えており、周囲の環境や餌などを素早く感じとります。
成虫は性別によって見た目に違いがあり、オスは求愛や縄張り争いに使うための「発音器」を備えた大きな2枚の翅が特徴的です。
一方メスは鳴く必要がないため翅はオスに比べて小さくスマートな形をしています。
また、メスは地中に産卵するためにお尻の先には槍のような形をした「産卵管」という器官があります。
◇飛べたり飛べなかったり
コオロギがピョンピョン跳び跳ねるのはよく知られていますが、実は後ろ翅を開いて飛ぶ事ができる個体もいます。
しかも、同じ種類であっても飛べる「長翅型」と飛べない「短翅型」に分かれているのです。
これには「ストレス」が関係しており、幼虫の頃に脚をケガしたり気温や湿度の急変を経験するとそのストレスから「飛ぶなどのような危険行動を控えるように」作用するホルモンが分泌されて飛ぶ能力が失われるという説が囁かれています。
②どんな所に生息しているの?
冒頭で少し触れたようにコオロギは森林や草原、公園にも生息していますが、他にも湿地や田園、畑、山、海岸でも姿を見る事ができます。
⭐泳ぎだってできる!
よく蒸れに弱いといわれるコオロギですが、短い間であれば水面を泳ぐ事もできます。
水面に落ちると普段はピョンピョン跳び跳ねる強力な脚力を使い、かなりのスピードで安全圏まで泳ぎ逃げ切る事ができるのです。
この行動は地中で暮らすケラでも観察する事ができ「オケラの7つ芸」の中にも含まれています。
③大きさはどのくらいなの?
コオロギは種類によって大きさに違いがあります。
よく餌として利用されている「ヨーロッパイエコオロギ」や「フタホシコオロギ」は成虫で2〜2.5cmや3〜3.5cmくらいの大きさである事がほとんどです。
④どんな物を食べているの?
コオロギは一部の種類を除いて基本的に雑食性の昆虫です。
◆共食いも珍しくない
植物質も動物質もしっかり食べるコオロギですが、動物質の餌を食べられない状態がしばらく続くとタンパク質などの栄養が不足してしまいます。
栄養失調症は彼らにとっても由々しき事態のため、栄養を補うために「共食い」をする事が多いです。
特に脱皮中の個体や自分より小さい個体がいたりすると襲って食べようとする姿が頻繁に見られます。
⑤天敵はどんなのがいるの?
昆虫の中では多才な能力があるコオロギですが、それは自然界の「主に捕食される側」という立ち位置故に培われたものなのかも知れません。
彼らの天敵は多く、カマキリやクモ、ムカデなどの蟲達やカエル・サンショウウオなどの両生類、トカゲやヤモリ、カナヘビなどの爬虫類、モズやツグミなどの鳥類などがいます。
追いかけてくる天敵に対しては自慢の脚力で逃げ回りますが、カエルのような待ち伏せ型の天敵の場合は「動くと反応する」という習性を逆手に取って「死んだフリ」をする事もあります。
2,餌として販売されているコオロギの種類について
コオロギの生態や特徴が分かってきたところで、早速皆様のハチュライフ・アクアライフ・アンフィビライフを支えてくれるコオロギの種類についてご紹介していきたいと思います。
①ヨーロッパイエコオロギ
通称「イエコ」と呼ばれ、3種類の中では最も小さい種類で、大きさは成虫で2〜2.5cmほどです。
後者の2種と比較しても体色が全体的に明るい色をしており、淡黄〜淡褐色をしています。この体色はイエコが幼い状態であるほど明るく白っぽくなっています。
動きが俊敏で小回りがよく利くタイプなので視認性も良いのですが、飼育している子がその動きについていけない場合は脚を取り除いてから与えると捕食しやすくなります。
②フタホシコオロギ
名前の通り、背中の翅の付け根に2つの白い斑点があるのが特徴のコオロギです。幼虫の時は黒一色ですが、成虫になると黒〜褐色の体に茶色の翅になります。
成虫の大きさは3〜3.5cmと食べ応えがあり、イエコより動きがゆっくりしているので動きが遅い子でも捕食しやすい面があります。
③クロコオロギ
近年餌用昆虫としてその姿を現したニューカマーです。
実は「クロコオロギ」という種類ではなく、フタホシコオロギを選別交配させて産み出されたフタホシコオロギの「品種」です。
体色はフタホシコオロギと比較してもかなり黒く、翅の付け根にある2つの白い斑点がかなり目立ちます。
また、成虫の大きさも4cm近いのでさらに食べ応えがアップしています。
クロコオロギの黒い体色は床が白いケージや暗色以外の餌入れの中でよく目立つため、飼育している子達の食欲を刺激します。
動きはフタホシコオロギと変わらずゆっくりめですが体が大きい分脚のトゲもかなり丈夫なので、与える前に後ろ脚を取り除いてから与えるようにすると食べる側も口内をケガする可能性を抑制できますし消化もしやすくなるのでオススメです。
⭐番外編!手間はかかるけどあの種類も与えられる!
市場にほとんど出回る事はありませんが、秋になると何処からともなくやって来て大合唱する「エンマコオロギ」も捕獲して色々と処理すれば食べ応え抜群の良い餌になります。
野生で捕獲する事になるため体内に寄生虫がいる心配がありますが、捕まえたエンマコオロギをジップロックなどに入れて冷凍庫でしっかり凍らせれば寄生虫を無力化できるので、与える時は解凍してから与えます。
また、捕獲したエンマコオロギを何匹か飼育して繁殖させれば、卵から孵化した幼虫に寄生虫はほぼおらず、飼育して育てれば良い活き餌となります。
3,餌用コオロギのサイズについて
コオロギに限った事ではありませんが、ショップによってはその大きさによって細かくサイズ分けして販売している事があります。
このサイズ分けによって、自分が飼育している子にピッタリな大きさの餌用昆虫を選べるようになり餌としてかなり扱いやすくなりました。
①ピンヘッド(PH)
卵から孵化したばかりの幼虫や1回脱皮したばかりの極小サイズです。
大きさはゴマ粒くらいしかないのでカルシウムパウダーなどのサプリメントをまぶす時には入れすぎたりまぶし過ぎて死なせないように注意が必要です。
爬虫類専門店でも取り扱われている事もありますが、ヤドクガエルなども取り扱っているような両生類専門店などでも販売されていたりします。
⭐サプリメントまぶしに困ったら「アレ」を使ってみよう!
ゴマ粒サイズのコオロギはとっても繊細で、ケース内が少しでも蒸れてしまったり足場が崩れてしまうと簡単に死んでしまいます。
これはカルシウムパウダーなどをまぶす時にも起きてしまう事があり、量を間違ってしまうとたちまち潰れてしまい一瞬で非常に複雑な気持ちにさせられてしまうものです。
そんな繊細なサイズにサプリメントをまぶす場合は、1度小さめのプラケースに与える分だけ取り出してから目の細かいタイプの「茶漉し」を使ってサプリメントをまぶすのがオススメです。
目の細かい茶漉しだと一気にサプリメントパウダーがピンヘッドに降りかからず、少しずつまぶす事ができます。
②SSサイズ
ピンヘッドより少し育ったサイズで、大きさは平均的に5mmほどです。
ピンヘッドより体がしっかりしているので動きがあり、視認性も少し向上しています。しかし、まだまだ繊細な体なのでサプリメントをまぶす際は注意が必要です。
③Sサイズ
ピンヘッドよりさらに育ち、大きさも平均的に8mm〜1cmくらいになっています。このくらいまで成長するとサプリメントパウダーをまぶしやすくなります。
フタホシコオロギ・クロコオロギはあまり動き回りませんが、イエコの場合は比較的動きが活発です。
④SMサイズ
ピンヘッドから大分成長した段階です。
大きさは平均的に1〜1.3cmくらいですが、種類やお店によっては性別が判別できる状態になっていたりします。
⑤M〜MLサイズ
あと数回の脱皮で成虫になるサイズです。
大きさは種類によりますがイエコで約1.5〜1.8cm、フタホシコオロギ・クロコオロギで約2〜2.5cmほどです。
メスは短いものの産卵管が延びているので雌雄判別もしやすくなっており、何匹か残して成虫まで育てて繁殖に回すという方法もできます。
サイズもかなり立派なので、中型爬虫類やツノガエルなどの口が大きい両生類、肉食系熱帯魚や川魚の良い餌になります。
⑥Lサイズ
成虫サイズです。成虫なのでこれ以上大きく育つ事はありませんが、翅や産卵管がしっかり伸びた立派な姿をしています。
種類によりますが、基本的には大型爬虫類や大型肉食魚の餌として扱われています。
ベテランの飼育者様となると、まとまった数をお店から購入し自宅で飼育管理&繁殖させてコオロギのサイクルを作るという「餌代節約術」を展開する事もあります。
成虫にもなると後ろ脚だけでなく頭もかなり固くなるため、気になる方は後ろ脚を取り除いたり、頭を潰すなどしてから与えると良いでしょう。
4,コオロギの飼育管理の方法について
爬虫類や両生類を飼育するにあたって餌となる昆虫のお世話はとても大切な事です。
大切に管理しないと一気に死んでしまったり、痩せた虫を飼育している子に与えなくてはならなくなります。
①飼育ケースについて
小さいサイズを少しであれば小さなプラケースでも飼育管理はできますが、数百匹単位であれば衣装ケースのフタを加工してそのままコオロギ用飼育ケースにする事も可能です。
②湿度・温度について
コオロギの仲間は通気性の良い環境を好んでおり、湿度が高いと蒸れて弱ったり死んでしまう事があります。
そのため湿度は高すぎない40〜50%くらいを目安にすると蒸れによる事故を抑制する事ができます。
③足場について
コオロギにとって足場はとても重要です。
特に幼虫は足場が無いと上手く脱皮ができず脱皮不全になったり途中で仲間に襲われてしまいます。
よく再生紙の卵パックが足場として入れてありますが、餌が不十分だと卵パックをコオロギが食べてしまい、消化に悪い再生紙がお腹に詰まってしまうので私は使っていません。
⭐防臭にも期待大!筆者愛用のアイテム!
コオロギを飼育管理しているとどうしても気になるのが「ニオイ」です。
幼虫だったり数が少ない内はまだ良いですが、成虫を大量に飼育しているとかなりアンモニアなニオイが飼育ケースから醸されてきます。
アンモニアは良いものではないので飼育ケースを洗うものの1度ついたニオイは若干残りますし、割りとすぐ復活してきます。
そこで筆者がたどり着いた答えが「竹炭や備長炭」などの炭です。
「値段が高そう」と思われるかも知れませんが、どちらの炭も消臭用に丸ごと販売されている事があります。また、炭は消臭効果や除湿効果もあるのでコオロギの飼育と相性が良いです。
我が家ではタワシで軽く炭の煤を払ってから使っていますが、コオロギ達は足場としてかなり使ってくれますし、たまに齧って炭に含まれるミネラル分を補給する様子も見られます。
④餌について
食べる物から体が作られていくのですから、餌用のコオロギ達にもたっぷり餌を与えましょう。
基本的に何でも食べてくれるので料理の時に出た野菜の切れ端や皮も植物質の良い餌になりますし、水分補給にもなります。
⑤水入れについて
コオロギはかなり水を飲むので水入れは必須のアイテムです。
しかし、深い容器だと溺れる事があるのであまり深くない水入れを用意します。
小皿などにミネラル石などを設置し水を入れておくと比較的安全に水を飲ませる事ができます。
5,コオロギの繁殖について
コオロギは繁殖力が強く、成虫になってから約2週間で繁殖が可能になるといわれています。
上手く繁殖させる事ができれば、餌代を浮かせる事もできますし、爬虫類や両生類の繁殖もしている場合はその成長段階に合わせて自家産コオロギを与える事もできるので慌てて取り寄せる必要もほとんどありません。
①雌雄を揃えよう!
繁殖にはしっかり育った雌雄が必要不可欠です。
②繁殖させるために必須のアイテムは?
コオロギは地中に産卵するタイプの昆虫です。そのため長い産卵管をさせるアイテムがどうしても必要になってきます。
そのアイテムが無くても産卵自体はするのですが、卵は乾燥に弱く孵化率が下がってしまったり別のコオロギに食べられてしまう事もあるので、しっかり自家繁殖させたいという場合は必ず用意するようにしましょう。
繁殖させるために必要なアイテムは「産卵床」で、プラカップや小さな容器に湿らせた赤玉土や黒玉土を敷き詰めた物となります。
これを飼育ケースに設置するだけで、卵がお腹いっぱいに詰まったメスがやって来て産卵してくれます。
③産卵したら?
産卵床を設置してしばらくしたら、飼育ケース内の産卵床を取り出して孵化用のケースに移します。
もっと卵が欲しい場合は新しい産卵床を作って再びコオロギの飼育ケースに設置しましょう。
25℃くらいで管理していると約2週間ほどで孵化が始まり、ピンヘッドコオロギが地表に現れるようになります。
④産まれたばかりの幼虫の餌は?
産まれたばかりのコオロギは本当に繊細で水入れから水を飲めず溺れてしまうほどか弱いです。
そのため餌は水分補給も兼ねて野菜の切れ端を与えながら観賞魚のベビー用の餌を小皿などに入れて与えると生存率が少しあがります。
6,活き餌以外のコオロギについて
「活きている虫が触れない」「長期保存できるのが欲しい」という悩みや要望から餌昆虫事情も大きく変わり、商品の試行錯誤の結果虫が苦手な方でも爬虫類をペットとして迎え入れられるようになりました。
ここでは活き餌以外のコオロギについていくつか皆様にご紹介させていただきます。
①乾燥コオロギ
新鮮なコオロギを乾燥させた商品です。消化しにくい頭や後ろ脚が処理されている事もあり、食べる側の子もサクサクと食べやすい商品になっています。
②冷凍コオロギ
新鮮なコオロギを冷凍した商品です。長期保存もでき、使う分だけ取り出し解凍してから与えます。
③缶詰めコオロギ
どちらかというとアクアショップで見かけやすい商品です。煮沸処理されたコオロギの缶詰めで、主にアロワナなどの餌として使われています。
④レトルトパックコオロギ
レトルトパウチのようにパッキングされた商品です。
7,コオロギの凄い一面について
爬虫類飼育者にとって餌用昆虫のイメージが強いコオロギですが、世界規模で見るとかなり注目されている昆虫でもあります。
①世界が認めた良質で豊富なタンパク質!
世界ではいつか来るであろう食糧危機に備えて「昆虫食」に注目が集まっています。
ミルワームやシルクワームも食材として研究が進められていますが、コオロギは繁殖のしやすさと良質なタンパク質から人気が高まっているのだそうです。
アメリカではすでにコオロギを使用したプロテインバー「クリケットフラワー」が開発されており、研究によると生のコオロギ100gに対して含まれるタンパク質は約20g含まれている事が分かっています。
②NTTの新たなる試み!?
通信会社として知られているNTT東日本様では新たな試みとして食用コオロギの生産を自慢の通信技術で支援する方針のようです。
温度や湿度、餌やりや水換えも通信技術で自動化する事で、かかる手間を最小限にしながら効率良くコオロギを生産する事ができるみたいです。
③人間サイズだと強すぎる!
「テラフォーマーズ」というマンガではストーリーの中で主人公が出会う能力者の1人として「フタホシコオロギ」の能力を持つキャラクターがいます。
とにかく戦闘が得意で、登場シーンでは仕留めたテラフォーマーを捕食するという、かなり衝撃的な姿が描かれていました。
このフタホシコオロギの能力、人間サイズとなるとコンクリートの壁を軽く破壊する脚力、触角と尾毛による環境の把握、新幹線並みのスピードと言われるゴキブリ軍団ですら対処できない反射神経によりとにかく圧倒的です。
まとめ
今回は餌用昆虫として馴染み深いコオロギについて皆様にご紹介させていただきました。
普段餌としてとてもお世話になっている昆虫でありながら、あまり気に止められていないのは個人的にとても切なかったので生態や特徴について色々とまとめた次第です。